「あっ、明日の夜だけど、友達と飲みに行ってくるわ」
ちょっとそこの醤油取って、くらいのノリで軽く言い放つ夫。

もし私が同じことを言ったらどうなるんだろう?
きっと返ってくる言葉はこう。
「えっ、じゃあ子供たちのご飯は?お風呂はどうするの?寝かしつけは?」

ある時は、夫は鏡を見ながらこう言います。
「あ~、そろそろ髪の毛切りたいな。次の休みに行ってくるわ」

私が美容院へ行きたいときは、夫へこう聞きます。
「美容院に行きたいんだけど、今度の休みに予約取ってもいい?」
そしてだいたい返事には、「え~・・・」という前置きが付いてきます。

そもそも、夫は有無を言わさず「行くわ」と言うのに反し、私は「行ってもいい?」というお伺いを立てている時点でおかしいですよね?
どうして夫から「行ってもいい?」という言葉が出てこないのでしょうか!

それは、子供は母親が見るものだ、という潜在的な意識のせいだと思っています。
そして私は父親である夫に対してでも、子供を”預かってもらう”という感覚でいるせいで、お伺いを立ててしまうのです。

もし、夫が「子育ては自分の仕事だ!」と思っていたとしたら、
「えっ、じゃあ子供たちのご飯は?お風呂はどうするの?寝かしつけは?」
…なんて言葉は出てこないと思いませんか?

こういう言葉が出てくるということは、子供の世話は自分の仕事だと思っていないんですよね。
いや、仕事だと思ってないというよりは…母親が主体で自分はサブ、という感覚かもしれません。

数年前、産科を舞台にしたドラマが放送されましたよね。
出産後、不安になる妻に向かって「大丈夫だよ。俺も手伝うから」と声をかける夫。

”俺も手伝う”

その言葉についイラッとした感情が沸き上がった母親は、きっと数えられないくらいいるんじゃないかなぁと思っていました。
まぁ、私もその一人でしたが。
その後、「”手伝う”じゃないだろ。あんたの子どもだよ」と言ってくれた産科医に惚れない母親はいなかったはずです。

たしかに、父親には母親のように体の変化はありません。
なかなか自覚を持て!と言われても、という感じなのかもしれません。
それでも、積極的に育児をしてくれるのなら問題ないんですよね。
でも現実的にはそうもいかないから、「手伝う」という言葉に敏感に反応してしまうのです。

私は、どうしたらこの「手伝う」感覚から抜け出してもらえるのか、考えてみたことがありました。

「まずは、もっと自分も主体だっていう自覚を持ってほしいんですよね。
いちいち妻に聞かなくても、どこに何があるのかをちゃんと把握してもらいたいし。
必要な時だけお願いされて動くんじゃなくて、自分で考えて行動してもらえたらどれだけ助かるかなぁ。」

…そんな願いを思い浮かべていると、なんだか自分の胸にチクッとくるものがありました。
まるで、「その言葉、あなたが言うの?」と誰かに言われているように。
この感覚はなんだろう?と、自分の歩んできた道を思い返してみると…

ありました、昔の経験が。
私にもこんな「手伝う」感覚で仕事をしていたことがあった、ということに気づいて、思わずハッとしました。

それは、新卒で入社した老舗ホテルでの経験。

私が配属されたのは、宿泊やレストラン、宴会の予約を受け付ける、電話担当の予約センターという名の部署。
パソコンに向かう事務仕事のため、電話口以外でお客様と接する機会の少ない部署でした。

そんな私が一番嫌いだった仕事がありました。
それは、「宴会部へのヘルプ」です。

入社して1年程経った頃から、人員削減!派遣を使わず社員を使う!といった風潮が社内に漂っていました。
まぁ、その考えはわかります。人員が一番の経費削減になりますからね。
しかし私には、自分は役立たずだという自信がありました。

宴会場の裏方は、常に慌ただしい雰囲気です。
100人を超えるような大型宴会だと、スタッフの数も増え熱気がこもります。
そしてみんな、忙しそうなオーラをまとっています。
リーダーのピリピリは空気から伝わってきます。

そんな中にヘルプとして放り込まれた、社員のくせに何もわからない私。
他部署の人間だからといって、丁寧に教えてくれる余裕のある人はほぼ皆無でした。
肩書は社員ですが、はっきり言って派遣さんよりも役立たず状態だったのです。

そんな状態を何度か経験するうちに、ヘルプへ行っても自分はきっと必要とされていない人材だと思うようになり、

「他部署の人間だから、宴会のことを全て知ってるわけじゃない」
「ヘルプの時間さえ乗り切ればいいんだ」
「だって宴会は私のメインの仕事じゃない」

おこがましくも、こんな気持ちで働くようになっていきました。
まさに、先ほど自分の胸に走った痛みは、この気持ちだったのです!

さて、これを父親の視点で置き換えてみるとこうなります。

「産んだ本人じゃないから、子供のことを全て知ってるわけじゃない」
「(育児を)頼まれた時間さえ乗り切ればいいんだ」
「だって子育ては自分のメインの仕事じゃない」

この気持ちはまさに、”手伝い(ヘルプ)”の感覚ですよね!
そこで私は気づいたのです。
父親の育児に対する感覚は、「他部署へのヘルプ」と同じなのでは…!ということに。

あえて部署名をつけるのであれば、「家庭」という会社の中で父親は「出稼ぎ部」、母親は「家事育児部」…こんなところでしょうか。
出稼ぎ部から家事育児部へヘルプへ行く…こんなところでしょうか。

たしかに私は、宴会部へヘルプに行っても、宴会の仕事を覚えようという気になれませんでした。
自分はあくまでヘルプで、メインの仕事があるという気持ちだったからですよね。
今思い返してみると、なんて傲慢な態度だったのでしょうか…恥ずかしい。

父親に”手伝う”という感覚をなくしてもらうためには、無意識に作り上げてしまった謎の部署を撤廃しなくてはいけないんですね。
会社を再建するようなものですよね。
さて、どうしたものでしょう。

どこかのイケメンが、最高の再建案を作ってきてくれて、「あなた方なら自力で立ち上がることが可能です!」と背中を押してくれたりしませんかねぇ。